血液・腫瘍内科
血液・腫瘍内科
以下のような症状がある方はご相談ください。
鉄欠乏性貧血は鉄不足が原因でおこる貧血です。日本の成人女性の約1割がこの病気であるといわれています。原因としては、月経や子宮筋腫などの婦人科疾患による出血が最も多く、がんや潰瘍、炎症などによる消化管からの出血、偏食、特に極端な菜食主義による鉄分の摂取不足、激しい運動による鉄喪失などがあります。特に、中年以降の男性では、胃がんや大腸がんが原因となっている可能性が高いので、胃や大腸の精査が必要です。
また、食品に含まれるグルテンでアレルギー性腸炎をおこし、鉄の吸収が阻害されるセリアック病も原因の1つです。貧血以外にも骨粗鬆症など様々な症状・病態を合併します。この疾患は日本人には少ないですが、難治性の鉄欠乏性貧血の患者さんの中に紛れていることがあります。鉄剤を飲んでいるのに貧血が良くならない方はご相談ください。
症状は、体動時の動悸、息切れ、立ちくらみ、頭重感、集中力の低下、全身倦怠感などがありますが、多くの場合、無症状です。鉄欠乏を放っておくと、スプーンのように爪が変形したり、食道の粘膜の萎縮が起きてものが飲み込みにくくなったりします。このような状態をプランマー・ヴィンソン症候群といいます。
治療は、第一に鉄欠乏の原因を治すこと、第二に内服または静脈注射で鉄分を補うことです。鉄剤の内服が苦手とおっしゃる方はご相談ください。
胃がんなどで胃全摘をした患者さんによくみられる貧血です。胃がんの手術をしてから5年程度経て発症します。胃全摘以外に、萎縮性胃炎や極端な菜食主義、小腸(回腸)の切除によってもおこります。また、ビタミンB12欠乏ではなく葉酸欠乏が原因となる場合もあります。症状は、動悸、息切れ、立ちくらみ、全身倦怠感といった貧血症状や手足のしびれ、舌のしびれや痛み、味覚障害が特徴です。
ビタミンB12の欠乏により貧血のみならず食欲不振や元気が出ない、白髪など全身的な症状が出てきます。鉄欠乏性貧血と違ってほとんどの患者さんに自覚症状があります。治療は不足したビタミンB12の内服ないし静脈注射です。鉄欠乏を合併することもあるので鉄剤の内服もすることがあります。
細菌やウイルスなどの病原体が体内に侵入すると、抗体とよばれるたんぱくが病原体にくっついて破壊し、排除する免疫反応がおこります。このような抗体による免疫反応が赤血球に対しておこると、赤血球が破壊され貧血をおこします。体内で赤血球が破壊されることを溶血とよびます。
急に溶血がおこると動悸、息切れ、めまい、立ちくらみ、全身倦怠感といった貧血症状が現れます。貧血の進行するスピードに体が対応できず、心臓に負担がかかるため、高齢者や心臓病のある方の場合、命取りになることがあります。溶血がおこることで、血液中のビリルビンが増加します。これによって、白眼や皮膚が黄色くなる黄疸が出ます。
治療は、免疫抑制薬、主に、副腎皮質ステロイド、を使います。重度の貧血に対して、輸血を行うこともありますが、赤血球に対する抗体がある場合には、輸血の効果は乏しく、溶血による副作用も強く出る可能性があります。
前項で細菌が体内に侵入すると抗体がくっついて破壊すると書きましたが、抗体は病原体の種類ごとにオーダーメイドで作られるため、抗体ができるまで1~2週間程度の時間が必要です。抗体ができるまでの間、補体というたんぱくが細菌にくっついて破壊します。補体はどんな細菌にも対応できますが、細菌以外の細胞にもくっつきます。我々の体内にある細胞は、補体の働きを抑えるたんぱくをもっているため、補体が細胞にくっついても破壊されないようになっています。この病気では、補体の働きを抑えるたんぱくをもたない血球が増えることによって発症します。赤血球に補体がくっついて破壊し、溶血がおこります。赤血球以外にも白血球や血小板も破壊されて少なくなることがあります。
常時、少量の溶血がおこっています。感染や手術など補体が活性化される状況になると溶血が強くおこります(溶血発作)。その際、赤血球の中身のヘモグロビンが尿中に排出されるため、赤~赤褐色の尿が出ます。特に、夜間に溶血が強くおこるため、朝起きたときにこのような尿が出ることが多いです。溶血発作時には、貧血症状や黄疸が現れます。
治療は、軽症であれば無治療で様子を見ます。中等症以上では、溶血発作時に輸血を行います。また、補体にくっついて働きを抑える抗体でできた薬を投与することもあります。
全ての血液細胞のもとになる細胞、造血幹細胞、が減少することで、白血球、特に好中球、赤血球、血小板が減少する病気です。造血幹細胞が減少する原因は、成人では、免疫細胞の攻撃による自己免疫的機序によると考えられています。好中球が減少することで発熱します。また、肺炎や敗血症(血液の中で細菌が増える状態)といった重症感染症をおこします。赤血球の減少により体動時の動悸、息切れ、疲れやすさ、頭重感などの貧血症状が現れ、血小板の減少により皮膚に点状の赤紫色の斑点が多発します。また、鼻出血、歯肉出血、生理が長引いたり出血量が増えたりするなどの出血症状が出てきます。
軽症であればたんぱく同化ステロイドの内服、中等症であれば免疫抑制療法、重症であれば免疫抑制療法と顆粒球増殖因子、トロンボポエチン受容体作動薬(血小板造血を促すホルモンの類似物質)の併用や造血細胞移植を行います。
造血幹細胞の異常により血球数が減少する疾患です。骨髄で血球が造られるのですが、分化の途中で血球が自壊し、血球が減少します。その結果、好中球減少、貧血、血小板減少がおこります。この疾患は、慢性的で進行性であり、多くの患者さんは赤血球や血小板の輸血が必要な状態となります。また、約3割の患者さんでは急性白血病に進展していきます。骨髄検査を行って診断をします。骨髄中に形のいびつな細胞が認められたり、芽球とよばれる幼弱な細胞が5~20%に増えたりします。血球細胞の染色体異常もおこります。骨髄中の芽球の割合や染色体異常の程度、血球減少の程度で病状進行のリスク分類を行います。
初期には、無症状で健康診断や血液検査で異常が認められるのみですが、血球減少が進行すると、発熱や肺炎などの感染症、貧血症状、出血症状が現れます。
治療は、症状に応じて赤血球輸血、血小板輸血、好中球を増やす物質(顆粒球成長因子)や赤血球を増やすホルモン(エリスロポエチン)の注射、DNAメチル化阻害薬という血球の分化を誘導する薬や抗がん剤で治療します。若年者で他の臓器の合併症がない患者さんでは、造血細胞移植を行うこともあります。
急性白血病は造血幹細胞が腫瘍化して骨髄内で異常に増えて骨髄機能を著しく損なう病気で、俗に、血液のがんと言われています。骨髄性とリンパ性に大別され、それぞれに治療法が異なります。血液や骨髄で芽球とよばれる細胞が20%以上を占めることにより診断されます。一般に、芽球が著しく増加するため、白血球数は数万~十数万/μL(正常は5~8千/μL程度)となります。急性白血病の種類によっては、白血球数が減少する場合もあります。白血球が増えるといっても正常な白血球は減るため、感染をおこしやすくなります。骨髄不全となるため、赤血球、血小板は著明に減少し、輸血が必要な状態となります。
主な症状は、発熱、動悸・息切れ、立ちくらみ、全身倦怠感、点状出血や皮下出血、リンパ節腫大などです。急性骨髄性白血病の種類によっては、歯肉腫脹がおこることがあります。縦隔腫瘍や肺への浸潤により呼吸困難をおこしたり、肝臓、脾臓の腫大による腹部膨満がみられたり、骨痛や筋肉痛を自覚したりすることがあります。
治療は、入院して数種類の抗がん剤を併用します。最初に行う治療を寛解導入療法とよびます。寛解とは、骨髄検査で白血病細胞が検出されず、一見して正常のような状態のことをいいます。寛解導入療法により寛解に至っても白血病細胞が潜んでいる状態であり、放置すれば再発します。白血病細胞をさらに少なくするため、地固め療法を行います。再発リスクが高い場合には、造血細胞移植を行います。
慢性骨髄性白血病は造血幹細胞が腫瘍化したものですが、急性白血病と違って芽球は増えません。白血球数は数万~十数万/μLと増えます。そのうち、好中球が大部分を占め、血液中に健常人では認められない幼若な分化段階の細胞が出現します。また、好塩基球が3%以上に増えることも特徴です。第9番染色体と第22番染色体の一部が入れ替わってできる異常な染色体(フィラデルフィア染色体)が認められれば、診断が確定します。この染色体異常により、第22番染色体にあるBCR遺伝子と第9番染色体にあるABL遺伝子が融合してBCR-ABL融合遺伝子を作ります。ABLはがん遺伝子で、活性化されると細胞増殖を促進します。BCR-ABL融合遺伝子からできるたんぱくはABLのスイッチが常に入っている状態となり、造血細胞が増殖し続けます。
初期にはほぼ無症状で、健康診断で白血球増加を指摘されて診断されることが多いです。白血球増加を放置しておくと、易疲労感、体重減少、寝汗といった全身症状や肝臓や脾臓が腫れて腹部膨満と生じたり、好塩基球が増えることで胃潰瘍をおこしたりすることもあります。
治療は、まず、抗がん剤の内服により白血球数を減らします。BCR-ABL遺伝子異常やフィラデルフィア染色体が確認されれば、ABLのスイッチを切る効果のあるチロシンキナーゼ阻害薬の内服に切り替えます。BCR-ABLのメッセンジャーRNAの量(IS%)を定量することにより治療効果を観ていきます。IS%が0.1未満となることが目標です。一定期間たってIS%が0.1以上であれば、治療薬を変更します。0.1%以上の状態を放置していると3~5年で急性白血病に病状が変化します。急性白血病に変わってしまうと治療が効きにくいことが多いので、こまめにIS%を測定して治療効果をモニタリングすることが非常に重要です。
Bリンパ球が腫瘍化しておこる血液腫瘍で、腫瘍細胞が主に血液中にあるものをいいます。ほぼ無症状ですが、病状の進行により、貧血や血小板減少、リンパ節腫大、肝臓・脾臓の腫れをきたします。Bリンパ球の分化増殖に重要な役割を果たすブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)が恒常的に活性化することによって発病します。
病気の進行度をライ分類やビネー分類で評価します。当初は無治療で経過を見ることが多いですが、上記症状が現れるなど一定レベルまで病状が進行したら治療を開始します。治療は抗がん剤や副腎皮質ステロイドの内服、ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬、抗体薬を用います。
リンパ球が腫瘍化しておこる血液腫瘍で、腫瘍細胞が主に腫瘤を作るものをいいます。悪性リンパ腫の約7割はリンパ節が腫れる節性リンパ腫で、残りの3割は、リンパ節以外の臓器にできる節外性リンパ腫です。悪性リンパ腫はできない臓器がない程、全ての臓器にできます。節性リンパ腫では、首や腋窩、そけい部のリンパ節が腫れます。胸の中では気管周囲や肺門、腹の中では大動脈の周囲のリンパ節が腫れます。発熱、体重減少、寝汗を伴うことが多く、これらの症状をB症状とよびます。
悪性リンパ腫は病理組織所見の特徴に従って、ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に大別されます。非ホジキンリンパ腫はさらに濾胞性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫、T細胞性リンパ腫などいくつかの種類に分類されます。これらの病理組織分類や疾患の広がり(病期)によって最適な治療法が異なります。基本的には、副腎皮質ステロイドと数種類の抗がん剤からなる多剤併用化学療法に抗体薬を組み合わせた治療を行います。再発・難治症例では、自家末梢血幹細胞移植や同種造血細胞移植、CAR-T細胞治療を行うことがあります。
HTLV-Iというウイルスによって引きおこされるTリンパ細胞の白血病ないしリンパ腫です。沖縄・九州地方に多い疾患です。HTLV-Iはエイズウイルスの近縁で、レトロウイルスの仲間です。乳児期に母乳を介して母から子に感染し、数十年の時を経て発症しますが、発症するのは感染者の約5%程度です。母親がHTLV-I保因者であっても母乳を与えなければ感染することはありません。急性型、リンパ腫型、慢性型、くすぶり型の4つのタイプがあります。急性型や慢性型では、血液中に花細胞とよばれる核が花のような形状の細胞が出現します。
ニューモシスチス肺炎やサイトメガロウイルス感染症といった免疫不全による日和見(ひよりみ)感染症(エイズのような免疫不全患者特有の感染症)、高カルシウム血症とそれに伴う脱水や意識障害、皮疹、リンパ節腫大、貧血などの症状が現れます。
急性型、リンパ腫型では、発症後早期に治療を開始しますが、慢性型、くすぶり型では当初は無治療で経過観察します。治療は、日和見感染症や高カルシウム血症の治療を行いつつ、数種類の抗がん剤を併用した多剤併用化学療法に抗体薬を組み合わせた治療を行います。同種造血細胞移植を行うこともあります。
形質細胞とよばれる抗体を造る細胞が腫瘍化しておこる血液腫瘍です。多発性骨髄腫では、Mたんぱくとよばれる異常な免疫グロブリンが血液中に増えることが特徴です。病型によっては、血液中の免疫グロブリンは減少し、尿中にベンス・ジョーンズたんぱくという異常たんぱくが出現するものもあります。なお、免疫グロブリンは抗体ともよばれています。
Mたんぱくが増えることによって正常な免疫グロブリンが減少し、免疫不全状態となります。肺炎などの重症感染症をおこしやすくなります。また、Mたんぱくは様々な臓器に沈着して臓器障害をおこします。特に、腎臓に沈着しやすく、腎機能障害が頻発します。骨髄腫細胞は骨髄中で増え、腫瘍は骨を溶かしながら広がっていきます。このため、骨折しやすくなり、脊椎の圧迫骨折や肋骨骨折、大腿骨近位部骨折がよくおこります。また、血中のカルシウム濃度が高くなり、のどが渇いたり、意識障害をきたしたりします。正常の造血機能が障害されるために貧血をおこします。その他、Mたんぱくが著しく増加すると血液の粘り気が増し、過粘稠度症候群(出血症状、視力障害、頭痛、めまい、心不全、全身倦怠感など)をおこします。
治療は自家造血細胞移植が可能か否かにより変わりますが、いずれも、プロテアソーム阻害薬と免疫調節薬、副腎皮質ステロイド、抗体薬を組み合わせた多剤併用療法を行います。高カルシウム血症や骨病変に対しては、ビスホスホネートや抗体薬を使用します。
赤血球増加症は、血液細胞自体に異常がある真性赤血球増加症と血液細胞以外の臓器の疾患によっておこる二次性赤血球増加症、慢性的な脱水によりおこるストレス多血症の3つの病態に大別されます。
真性赤血球増加症は、造血幹細胞の遺伝子異常によっておこる腫瘍性の疾患です。JAK2遺伝子という赤血球の増殖に関わる遺伝子の異常により赤血球が造られ続けます。真性赤血球増加症の患者の95%にJAK2V617F変異という異常が認められます。症状としては、頭痛、めまい、ふらつき、寝汗、微熱などがあり、肝臓や脾臓が腫れて腹部膨満を自覚することがあります。脳梗塞や心筋梗塞などの血栓症をおこしやすなり、四肢末端に血栓症をおこして手足の指が赤くはれて痛む肢端紅痛症をおこすことがあります。また、水やお湯で体がかゆくなることがあります。血栓症を予防するため、瀉血をしたり、血栓形成を抑える薬を使用したりします。治療としては、抗がん剤の内服やJAK2の働きを抑える薬を使用します。一部の患者さんで骨髄線維症や急性白血病に進展することがあります。
二次性赤血球増加症は、心、肺、腎、肝の疾患や睡眠時無呼吸症候群などによっておこります。中にはがんも含まれますので、赤血球増加の原因となっている疾患を特定することが重要です。エリスロポエチンという赤血球の産生を促すホルモンの値が上がっている場合に二次性赤血球増加症を考えます。治療は、もともとの病気の治療を行いますが、赤血球増加の状態を放置していると脳梗塞などの血栓症をおこしやすくなるので、瀉血をすることがあります。
ストレス多血症は、赤血球が増えるのではなく、血液の水分(血漿)が減ることにより血液が濃縮されている病態です。中年男性で肥満、喫煙者に多く、赤ら顔をしていることが多いです。脂質異常症、高脂血症、高尿酸血症など生活習慣病を合併していることが多いです。生活習慣の改善、こまめに水分を摂取することを心が得ることが重要です。
造血幹細胞に異常により血小板が異常に増える病気です。約50%の患者さんでJAK2V617F変異が検出されます。健康診断や血液検査で偶然発見されることが多いですが、血栓症や出血症状をおこしやすくなります。血小板数が多いとフォン・ヴィルブランド因子という血液凝固因子が少なくなる二次性フォン・ヴィルブランド病になり、出血しやすくなり、いったん出血すると止血しにくくなります。脳梗塞、脳出血といった重大な疾患を引きおこす可能性や骨髄線維症、急性白血病に進展する可能性もあります。抗がん剤の内服やアナグレライドの内服で治療を行います。
骨髄にコラーゲンが蓄積し、骨髄機能不全をきたすとともに、主たる造血組織が脾臓に移る疾患です。骨髄線維症は原因不明の原発性と急性白血病や真性赤血球増加症などに引き続いておこる二次性があります。原発性骨髄線維症の患者さんの約30%にJAK2V617F変異が検出されます。症状は、貧血による動悸、息切れ、めまい、全身倦怠感など、脾腫による腹部膨満感、寝汗や体重減少などです。治療は、JAK2の働きを抑える薬の内服や若年者では造血幹細胞移植を行うこともあります。
血小板に対する抗体が作られることで血小板が破壊されて減少する疾患です。血小板は血管が破れたときに穴をふさいで出血を止めようとする細胞です。血小板が減少することにより、出血しやすく、いったん出血すると血が止まりにくくなります。
皮膚に1~3mm大の点状の赤紫の斑点が多数出現します。これを点状出血といいます。歯肉出血や鼻出血、生理出血の止血困難といった症状も現れます。血小板減少が著明となると脳出血や肺出血といった重篤な出血をおこすことがあります。急性型と慢性型に分類され、急性型はかぜや風疹などのウイルス感染症をきっかけに発症し、小児に多く、ほとんどが自然に軽快します。成人は、慢性型が多く、ほとんどの場合、治療が必要です。ヘリコバクタ・ピロリという胃に感染する細菌が発症に関与していることが知られています。
ヘリコバクタ・ピロリ感染者では、除菌療法を行うことにより、血小板数が回復します。非感染者の場合、副腎皮質ステロイドを使用します。これらの治療が有効でないか、有効だが副腎皮質ステロイドの減量が困難な場合には、脾臓摘出術や抗体薬、トロンボポエチン受容体作動薬(血小板造血を促すホルモンの類似物質)を用いて治療を行います。
凝固因子の欠乏により出血傾向をきたす疾患です。先天性と後天性があり、先天性は男性に発症し、遺伝子異常によって生まれつき凝固因子を作ることができません。後天性は男女ともに発症し、凝固因子に対する抗体がつくられることにより凝固因子が著しく減ってしまいます。
症状は出血症状ですが、皮下に広範囲に出血をおこしたり、筋肉内や関節内に出血したりするのが特徴です。
治療としては、先天性の場合には、欠乏している凝固因子を補う必要があります。後天性の場合には、欠乏している凝固因子の補充は効果がないため、バイパス製剤とよばれる凝固因子製剤を用います。それと同時に抗体の産生を抑えるため、副腎皮質ステロイドを用いた免疫抑制療法を行います。
長時間にわたる座位により足の太い静脈(深部静脈)に血栓ができ、立ったり歩いたりすることで血栓が血管壁からはがれて肺に流れて行って肺動脈を塞いでしまう病気です。大きな血栓により肺動脈がふさがれると意識を失って倒れ、そのまま死亡することもあります。飛行機などのエコノミークラスで長時間椅子に座っているとおこりやすいことから、このような名前が付けられていますが、自動車内で座った状態での車中泊などでもおこります。
誰にでもおこりうる疾患ですが、おこりやすい体質があります。人体には、血液凝固を抑制する仕組みがあります。プロテインC、プロテインSというたんぱくが結合して凝固因子の働きを抑え、凝固反応が過剰におこらないようコントロールしています。プロテインS遺伝子の異常のため、生まれつきその働きが低い人が、100人に1人いるといわれています。プロテインCやプロテインSの遺伝子異常をもつ保因者は、何の症状もなく日常生活を送ることができますが、長時間の座位や手術を受けるといった状況になると血栓をおこすリスクが高くなります。血縁者にエコノミークラス症候群をおこした人がいる方は、プロテインC、プロテインSなどに異常がないか血液検査を行うことをお勧めします。
がんの進行に伴って現れる筋肉量の減少を特徴とする病態です。体重減少、食欲不振、倦怠感などの症状を伴います。これらの症状により生活の質が低下してしまいます。さらに、スケジュールどおり抗がん剤の治療が行えず、期待される効果が得られなくなったり、副作用が強く出たりして、寿命に影響を及ぼす重大な病態です。がん組織から放出される炎症性サイトカインとよばれる物質により筋肉のたんぱくが分解されて減少します。
がん悪液質は、前悪液質(6か月以内の体重減少が以前の体重の5%以内)、悪液質(6か月以内の体重減少が以前の体重の5%超など)、不応性悪液質(治療抵抗性、経口摂取困難、全身状態不良など)の順で進行します前悪液質の状態から治療を行うことが重要です。
食べていても痩せる代謝が亢進した状態であり、栄養補助食品などを摂取して不足しがちなエネルギーとたんぱく質を補充します。薬物療法としては、非小細胞性肺がん、胃がん、膵がん、大腸がんの患者さんではアナモレリンという食欲増進を促す内服薬を用います。それ以外のがん腫については、六君子湯などの漢方薬を用います。
がん患者さんのみならず、全身倦怠感や疲労感に対しては、漢方薬の気を補う薬(補剤)を用います。補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯などを患者さんの状態に応じて使用します。即効性はありませんが、長く続けることで効果が出てくることが多いです。
がん患者さんが感じる痛みには、がんによる痛み(腫瘍の浸潤や増大、転移によるもの)、がん治療による痛み(抗がん剤治療の副作用、術後痛など)、がんやがん治療と直接関係のない痛み(帯状疱疹など)があります。がんの痛みによって社会活動や日常生活が制限されることになり、生活の質が低下してしまいます。
がんの痛みに対する治療の目的は、生活の質を維持できるように痛みを軽減することです。以前は、“弱い”痛み止めから順々に試していくような「除痛ラダー」に沿って治療することが行われていましたが、患者さんの痛みの原因や特徴、日常生活や社会活動の状況を把握した上で、一人一人にあった治療法を考えて実践していくことが重要です。
非ステロイド消炎鎮痛薬(NSAIDs)やアセトアミノフェン、コデインやトラマドールといった弱オピオイド、モルヒネやオキシコドンといった強オピオイドこれらの鎮痛薬が主に使われますが、各薬剤の特徴を考慮して選択します。
抗がん剤などによる口内炎の痛みには、半夏瀉心湯の含嗽を使用します。
がん性腹膜炎や骨転移による痛みや炎症による痛みにはNSAIDsが有効です。痛みが強い時にはオピオイドと併用し、オピオイドの使用量を抑える効果も期待できます。
中~高度の痛みにはオピオイドを使用します。内服でコントロールする場合には、徐放剤を定時に内服し、痛みの強いときに即効薬(レスキュー薬)を内服するのが基本です。徐放剤の代わりに貼り薬を使うこともあります。
神経障害性疼痛には、オピオイドが有効ですが、単独でコントロールをつけることが難しいことも多々あります。抗けいれん薬や抗うつ薬、抗不整脈薬、副腎皮質ステロイドなどの鎮痛補助薬を併用します。しびれに対して、牛車腎気丸などの漢方薬を併用することもあります。